阪大の入試ミスについて

阪大の入試ミスの報道がされている。さすがに一年弱も過ぎてからの対応は問題でしょう。対応云々ではなくて、そもそもの出題ミスがどんなものだったのか気になったので検索してみた。経過を見ると指摘も複数回あったようだから、問題から指摘内容までまとめてあるところがあるだろうとおもい、Web検索。

goto33.blog.so-net.ne.jp

上記ページの「おまけ」にもいくつかリンクがあって、例えば

https://www.dropbox.com/s/z5x1pq7k7i8daoy/osaka_u.pdf?dl=0

には問題と解説をまとめたファイルが。

結局は「音波(の波形表示)」を空気の粗密にとるか振動(運動)にとるかという問題と、固定壁での音波の反射は「固定端反射」という「常識」の問題だったのかも。

(そういう事をいろいろな表現で説明されているわけですが)

教科書を盲目的に読むと今回の問題は「固定端反射」の問題です。代表的な「気柱の定在波」の問題がそうです。今回の問題の前半がまさに気柱の問題。じゃあ、なぜ「固定端」なのかという事は教科書にもあまり説明がないように思えます。空気の「粗密」を考えると、どう考えても「自由端反射」。波形表示した時に密度を軸にとれば壁と衝突した時に疎が密になるなんて考えられない。でも、振動方向だったらこれは「固定端反射」。(上記の「わかりやすく解説」ページに図入りで説明されている)(後述のように「変位」で考えるのが筋らしい)

教科書で「固定端反射」とこだわりたい理由はよく分かる。気柱の定在波を説明するのに、壁での散乱は「自由端反射」なんて説明をするのはちょっと面倒。弦と気柱の定在波で逆になってしまう。当然、気柱の話をする時、音波の波形は運動について。この時にもう一つ問題が生じて、上記リンク先にあるように軸のとり方がでてきますが、散乱前後で軸は同じというのが暗黙的にとられている。それは物体の散乱を考える時にもそうするわけで、統一性があるといえばそう。(※にも書いたけど、定在波を説明しようとした瞬間に疎密表示は無理がでる)

でも、音波自体を説明する場所では、疎密波として波形表示を行いながら説明をしていたりする。変位での説明のほうが稀?そうなると、「反射」との整合性が問題になってくるような。

元々の正答から推測するに、壁での反射だから「固定端」でしょう(位相が逆転)というのが前提にあったのかなぁ。そもそも前半は気柱の問題だし。次に、音叉から左右にでる音の位相はどうなってる?という点が問題にあがり、ここは「粗密波」として「同位相」と問題設定してしまったのではないのか?この時点で、「固定端反射」は暗黙の了解になってしまった?(問題の順序としては音叉の周りで粗密がどうなっているのかを聞いているので、こちらが先なのかもしれないけど。うがった見方をすれば、あとから追加した説明・設問のように見えなくもない)

一方で、表面的に教科書にかかれている情報をつまみ上げてながめてみると、また違った姿が見えてくる。手元にある教科書一冊だけを斜め読みしてみると、

  • 音波の固定壁での反射は「固定端反射」
  • 音波を波形表示する時は「粗密波」(も)

となって、なるほど今回の騒動は高校の物理教科書に対するアンチテーゼ的な役割を持つものだったのかととらえる事もできたり出来なかったり。

話はかわるけど、阪大の問題のように音叉が振動しているとしたら、向きによって位相が違うの?(ここの位相ってなに?笑)うまく90°ずらして音を拾えば、打ち消し合ったりするのかしら?

 ※ 訂正後の正答に、元々の解が含まれているのはなぜか?音叉からの進行波と壁からの反射波による干渉を含んでいるから?

 ※ 京大入試にも類似問題がというコメントをみたので、ちょっと見てみた。当の問題はというと、

sokuho.yozemi.ac.jp

のようです。京大の場合はマイクと音叉が同じ場所に存在しています。さらには音源についての説明もありません。阪大の問題のように、「音源から反対方向に発せられる音波の片方を固定端反射させ、波の干渉を見る」のとは少し違います。この場合の設定は音源から発生する二つの位相の揃った波を考えて、片方を固定端反射させると解釈するのが自然でしょう。なので阪大のケースとは違うのでしょう。

※ 空気の変位で音波のをとらえるのが標準というコメントもありますね。確かに教科書には「変位」と「疎密」の二つで説明があります。ただ、「空気の変位」って事がすでにイメージをつかみにくい事、固定端反射の説明がそれでもわかりにくい気がする事が気になります。変位というのだから基準があってそこからのズレなわけで、例えば気体分子が基準となる位置から壁の衝突前後で真逆の位置に変化するというのはなかなか理解しづらい。弦を伝わる横波の場合は、なんとなく端を固定しておくと、変位が反転するような気がするが。

※ 今回の問題を解説しているものの一つに

p.booklog.jp

がある。ただ、盲目的に疎密波の壁での反射は自由端反射(位相の変化無し)なので、2 d = n λ である。というのは少々むり筋なのかもしれない。科学館等にある気柱の定在波演示器では、気柱内に小さなスチロール球を入れて空気振動を明示する。粗密の変化が大きい場所ではスチロール球は大きく動き、変化の無い場所ではスチロール球の動きは抑制される。空気振動が音であるかぎり、音の定在波はやはり粗密変動として理解するのが直感的。定在波を扱う場合にはやはり壁での反射は固定端反射として、粗密変動がない(定常状態)であると考えるほうが良い。今回の問題の鍵は音叉から左右にでる波の位相の関係と音波の固定端反射の組み合わせなので、この提言は不十分。

※ 複数回の阪大への指摘について、その中身を知らないので確かな事は言えないが、もしかしたら、もしかしたら、最初の1・2回の指摘は上の提言のようなものだったのではないだろうか?もし、「疎密波の壁による反射では位相が変化しないので、正答は・・・」という指摘だったのだとしたら、阪大の姿勢もまだ理解できないでもない。

※ ついでにもう一つ

active-galactic.hatenablog.com

数学嫌いな人にとっては???な説明だと思うのだけど、言っている事は至極まっとう。問題点の指摘も的確。今回の問題は音叉だとおもうのだけど、それをはっきり指摘しているところってあまりないね。(東宝的に広がる圧力波っていうのは、あれか、開幕時にザッパーンってきて三角的にドーンと広がるって?ごめんなさい。ふざけすぎました。)